impressible

始まりの夢

真っ白な世界だった
夏の強い陽射しが痛かった
それでも学校指定のつばの広い帽子をかぶる気にはなれなかった

蝉の声だけが響く広い道路を歩いた
新旧の建物が入り混じった区域の
背の低いマンションに入った

病気の人がいた

丁度目を覚ましたその人の汗を流すために
歩いてかいた汗を流すために
ふたりで風呂に入った

浴槽の中でその人の体を撫でるように洗った
その長い髪も
端正な顔も
すべてが愛おしかった

ただ愛していた
その人の心が本当は自分にないことを分かっていても
その人には自分しか居なかった
だからそれでも良かった

メールの受信を知らせる音が響いた
「あの人」に仕事の依頼が来たことを告げる音を苦々しく思った

濡れた体を丁寧に拭き
機械でその人を浴室からベッドに運んだ

軽いキスをしてその人が目を閉じるのを確認すると
自分の服を取りに浴室に戻った

壁一面を占める窓から教師の火遊びが見えた
この時間に自分の学校の生徒が
このようなところに居るとは思っていないのだろう

またすぐに捨てられるだろう女生徒を憐れに思いつつ
自分も人のことを言える立場ではないことを思った

不意にドアが開いた
あの女が立っていた
ねめつけるように自分を見ると
「あの人」が居ないことを確認して直ぐに出て行った

「あの人」とベッドで休んでいるあの人は同じ人間なのに
女は「あの人」にこだわった
それがひどく不愉快だった

そのうち「あの人」は目を覚ますだろう
そうすれば「あの人」は直ぐに仕事に行ってしまう
自分は待つことしか出来ない

ソファーで膝を抱え丸まっているうちに
眠りに落ちた
気がつくと部屋は真っ暗で
慌てて覗きにいったベッドはすでに空だった

窓を不透過にするボタンを押し
部屋の電気をつけると
自分にあの人のカーディガンがかけてあったのに気づいた

急に寒さを感じ室温を調節した
時計を見て思ったより夜が更けていることに気づき
帰りがいつもより遅いので心配になった
また膝を抱えてソファーに座った

「あの人」が帰ってきたのは日付が変わってからだった

大きなカンバスを床に置くと
迎えに出た自分を抱きしめてくれた

時間が長くなったので直ぐに入れ替わる旨を言うやいなや
「あの人」は自分に力なくもたれかかった
急に重くのしかかった体を
引きずるように寝室へ連れて行った

穏やかな寝息を聞いて安心した

椅子をベッドに寄せて座った
夏の夜明けは早い
あと4時間もすれば床近くの細い窓から朝日が差し込んでくるだろう
そうすればあの人が目を覚ますはずだ

朝ごはんは何にしよう
いつものように要らないと言うだろうけれど
いつものように無理やりスープでも飲ませよう

また椅子に座ったまま浅い眠りに落ちた
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by nonbike | 2009-11-01 23:17 | creative power
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